遊星からの物体Xはホラーじゃないぞ!(ホラー要素満載だけど)

※かなりネタバレしてるので読みたくない人は読まないでくださいね!

 

1982年公開の「遊星からの物体X」。以降の様々な作品にいろんな影響を与えた映画として知られてますね。

 

グロ描写満載のSFホラーの金字塔!とか、疑心暗鬼感強い不安要素の恐怖映画、とか言われていますね。フランスでは名画100選に選ばれているとかなんとか(あの「シェルブールの雨傘」と同じくくりかよ!と思ってしまいますが。定かな情報ではないのでご勘弁を)。

 

でも僕は違う思いをこの映画に抱いています。

 

監督したジョン・カーペンター。この人は確かに純粋なホラー映画も多いけど、メッセージ性があったり、主人公がアウトローだったりする映画もあって、反骨精神の強い作家性があります。ハワード・ホークスという監督を敬愛していて、この監督は西部劇を多く作ったそうです。

 

そのことも踏まえて、なぜ僕が「遊星からの物体X」がホラーではないと思っているか、ちょっと書いてみようと思います。

 

舞台は1982年の南極。アメリカの南極観測隊第四基に一匹の犬が迷い込みます冒頭はノルウェーの南極隊員がその犬をヘリで追うシーンから始まります。ノルウェーの隊員たちはひどく追い詰められ、錯乱した様子で犬を銃を撃ちまくります。その一発がアメリカの隊員に当たり、危険だと判断した隊長がノルウェー隊員を射殺します。銃を撃っているあいだ、ノルウェー隊員はまくし立てていますが、アメリカ隊員たちには全くわかりません(ちなみに日本語訳も出ません)。

犬はアメリカ南極基地で保護されます。しかし、その犬は宇宙から来た生物が、その体を乗っ取った姿であり、やがて想像を絶する姿を現します。

なんとかその犬は退治したものの、その「生き物」は生物に接触し精神も身体も乗っ取ってしまうのです。その犬は保護された時から基地内を自由に歩き回っていました。つまり、人間も乗っ取られている可能性があるのです。

一人、また一人と乗っ取られていく隊員たち。なんとかそれを阻止するにも仲間が「生き物」に乗っ取られているかもしれない…そんな恐怖に苛まれながらも対峙しようとする隊員たち。

主なストーリーはこんな感じでしょうか。確かに閉鎖空間でのホラー感満載ですね。でもなぜ僕はそう思わないのか、主に四点、理由を書いていきたいと思います。

 

第一に、主人公であるマクレディ隊員。彼はヘリを操縦する隊員として登場しますが、彼は他のみんなが娯楽室で卓球をやったり、カードゲームに興じたりしているなか、一人自室でコンピューター相手にチェスをしています。彼はアウトロー気質なのです。裏設定ではベトナム帰還兵らしく、戦場でのトラウマが少しあるようです。そのせいもあって人と距離を置いているのかもしれません。映画でもわりと彼一人のシーンも少なくありません。修羅場にも冷静に対応している様子が映画の中でも描かれます。極限状況でも「生き物」の特徴を見抜いたりもします。つまり、こいつならなんとかしてくれそうだな、と思ってしまうのです。その彼が、絶望的状況下で仕方なくリーダーシップを取っていくことになるのですが。

 

第二に、「生き物」の撮り方です。クリーチャーというと、怖いものであればあるほどチラッと見せたり、ぼやかしたり、目で追いつけないような速さで見せたりと、そういうのが定番の描き方だと思うのですが、この「遊星からの物体X」ではそんなことはほとんどありません(ちょっとあるけど)。

どう?このクリーチャーすごくよくできてるでしょ、と言わんばかりにじっくりと見せてくれます。当時はCGもあまりない手作りの技術でしたので、よくこんなの考え付いたなー。と恐怖よりも感心したものです。これは、続編の「遊星からの物体X ファーストコンタクト」と比べてみれば一目瞭然です。あちらはホラーの定石に乗っ取った描かれ方をしています。つまり、「遊星からの物体X」はあまり怖がらせようとはしていないように思えるのです。

第三に、アメリカ南極隊員たちの描かれ方と、「生き物」に対する反応です。「生き物」が正体を現しても、皆が皆、ギャアギャアわめくとか叫ぶとかあんまりしないのです。パニックになっている隊員もいますが、必ず誰かが(マクレディであることがほとんどですが)、状況に対処しようとしているのです。それに、たいていの場面、隊員たちはわりと冷静に話し合っていたり、静かに「生き物」や死体を無言のまま見下ろしている描写が多いような気がします。そう、この映画は意外にも、静かな淡々とした描写が多いのです。

 

第四にラストとラストまでの描写です。無線も通じない。仲間もほとんど減ってしまった。極め付きに発電機まで破壊?(「生き物」に飲み込まれた?)されてしまい、自分たちも越冬できないという絶望的な状況に追い込まれます。「生き物」は寒くても眠るだけです。人間は寒さで全滅です。その状況下にあっても、「眠らせないよう周囲を温めてやるんだ。どうせ死ぬなら道連れにしてやる」とマクレディは言い放ち、南極基地をすべて爆破していきます。

 

「どうせ死ぬなら道連れにしてやる」この気迫はどこからくるのでしょか?死を覚悟したからでしょうか?僕はこのセリフだけで心強さを感じました。

 

最後に「生き物」にとどめを刺すときも「くたばれ!バケモンが!」(だったと思う…)と吐き捨て、ダイナマイトを投げつけます。これもかなり攻撃的な発言ですね。恐怖心から発した言葉ではないと思います。ある意味勝利宣言です。

 

ラストはマクレディともう一人生き残った隊員が静かに死んでいくんだろうなという場面で終わります(実はゲームで続編があって、その中ではマクレディは生き残って帰還します。ある意味ヒーローなんでしょうか)。

 

とここまで書いてきて、なんとなく僕の言いたいことが分かってもらえたでしょうか?つまり、ホラーの皮を被ったサバイバルドラマのように思うのです。人間も必死。「生き物」も生き残るため必死。とてもパワフルな対決ものに思えてしまうのです。

 

だからなのか、この映画を見るたび、元気をもらいます(笑)。

 

ターミネーター」第一作もそうですが、人知れず人類の危機と戦う、という設定がとても魅力的です。もっとも「遊星からの物体X」の登場人物たちはそんなことこれっぽっちも思っていないでしょうが。そこらへんもハードなボイルドを感じますね。

 

ここまで読んで頂いた方、勝手な持論に付き合っていただきありがとうございます。

 

誤字脱字、乱文乱筆、ご容赦のほどを。