K’s diary

独断と偏見に満ちた映画評です。いや、映画だけじゃなくなるかも…

「マジック・ボーイ」 リリカルで詩情豊かな一品

今週のお題「あれは名作だった」だったので、隠れた名作を紹介したいと思います。

※かなりネタバレしてるので読みたくない人は読まないでくださいね!

1982年の映画「マジック・ボーイ」。この映画の題名を聞いても「知らんがな!」って言う意見がわんさか出てきそうですね。どうせマジシャンがマジックを披露して拍手喝采される映画だろ?と思われても仕方ありませんね。確かにこの映画はかなりマイナーで、僕もたまたまテレビ放送されたのを1回しか見ていません。しかし後からDVD買ってしまうくらいこの映画の雰囲気に引き込まれました。

 

興味深いのは、あの「ゴッドファーザー」のフランシス・F・コッポラ監督が製作総指揮をして、「E.T」等スピルバーグ作品に参加しているメリッサ・マシスンが脚本を書いています。この人は割と繊細な心理描写の脚本を書いている印象を受けます。このことからもこの映画が、普通にマジックで成功する話ではないような感じがしてきませんか?

 

また、邦題がイケてません。原題は「The Escape Artist」で、こちらの方が内容に即しているなと思います。

 

話はある有名なマジシャン(特にあらゆるところから脱出する、脱出の名人)を父に持つ少年のちょっと風変わりな物語です。

主人公ダニーはある事件で父親を亡くし、祖母の家で暮らしていました。父親譲りのマジックの才能を持つ彼は、祖母の家を出てマジシャンで生計を立てている叔父夫婦のもとに身を寄せます。自分の才能を誰かに見てもらいたかったのか、様々な場所でマジックを披露したりしていました。

その際、市長の息子と知り合います。彼はどうしようもない「クズ」として映画では描かれています。市長の息子の特権を生かして定職にも就かずやりたい放題過ごしています。またその市長も汚職に手を出しているという悪徳政治家です。市長の息子スチューは父親にいたずらをするため、市長室の金庫の鍵を開けてほしいとダニーに依頼します。それをダニーはあっさりとこなしてしまいます。まあ、返すつもりだったのでしょうが、その金庫からダニーは財布を懐に入れ市庁舎のとある場所に隠してしまいます。その財布には汚職の証拠が入っていました。金庫を開けられるのは市長と息子だけです。

当然スチューは疑われ、実の父に刑務所に入れられてしまいます。そのことを知ったダニーはスチューを助けようと、脱獄のマジックを披露すると新聞社に伝えます。自分も同じ牢獄に入ってスチューを逃がす算段です。でも彼には他にも脱獄のマジックをする理由があった…と、ストーリーはこんな感じでしょうか。かなり細かいエピソードを端折ってますが(笑)。

 

この映画では、主人公ダニーがとても魅力的に描かれています。多分歳はざっくり中学生ぐらいでしょうか。小粋にいつもスーツを着ていて「友達なんてみんな嘘っぱちさ」なんてセリフを言ってたりもしますが、映画全体に彼の孤独感が滲み出ています。僕は映画の中で心情のすべてをセリフで言ってしまうような手合いは凡庸だと思っているのですが、この映画は見事に雰囲気と音楽だけで彼の孤独やナイーブさを表現していると思います。これは、音楽を担当したフランスの作曲家ジョルジュ・ドリューの手によるものが大きいと思います。

 

また彼のマジックが実に見事で「よくできるな~」と不器用な僕は魅入ってしまいます。主人公ダニーを演じたのはグリフィン・オニール。彼は俳優一家の中で育った人なのですが、素行や態度が悪かったのかその後は作品に恵まれていません。

ただ、この映画の中では非常に際立った子役の印象を受けます。身にまとった雰囲気、セリフ回し、鮮やかなマジック。素晴らしい俳優だと思いました。

 

ネタバレになってしまいますが、彼が刑務所からの脱獄をしようと思い立ったのは父を越えたかった、むしろ父の想いに応えたかった、そういう想いがあったのを描かれています。そのシーンはとても見ごたえがあり、音楽とともに彼にそういう想いがあったんだ、と思わせてくれます(セリフでは言及されません。そこが素晴らしいのですが)。

 

最後の方は汚職の証拠をFBIに渡してしまったせいで市長が逮捕されてしまいます。そして怒り狂ったスチューから刃物を持って追いかけられるという、え!そんな展開になるの?という予想を斜め行くストーリーになりますが…。スチューから逃げて、ダニーは郵便ボックスの鍵を開け、中に隠れます(この頃はそんなことができたんですね、アメリカでは)。

スチューが警官に連れ去られた後、夜明けにダニーは郵便ボックスから出てきます。そして一人ゆっくりと街を歩き去ってゆく。その途中で靴に仕掛けていたマジック用の花がひらりと道端に舞い落ちる。そんなシーンで映画は幕を閉じます。

思わずおーい、一人でどこに行くんだよーと、と呼びかけたくなるような何とも言えないノスタルジーを感じさせてくれるラストシーンです。

 

またこの映画には、叔父夫婦や市長、スチュー、ダイニングで知り合った女の子など様々な人が登場しますが、どの人物もなぜか憎めない、というかなんかこういう人いてもいんじゃない?って感じがして、映画を優しい雰囲気に包んでくれるのです。(もちろん刃物でねらわれるシーンは怖いというよりびっくりしますが)

 

必見、とは言えませんが軽い感じで、なんか映画観ようかなって観てみると、その世界観に浸れると思います。

 

最後に、テレビ放送時の吹き替えでスチュー役を広川太一郎氏が演じていて、なんともユーモラスで、スチューを愛すべきキャラに仕立てていました。そこも映画の雰囲気を良くすることに一役買って出ていたのですが、今発売されているDVD盤には吹き替えがなくて、そこがちょっと残念なところです。

 

誤字脱字、乱文乱筆、ご容赦のほどを。